自立の道 まだ険しく 脱北者支援施設 開設10年 韓国・安城市 仕事は不安定 抜けぬ警戒心 2009/07/20
脱北者はハナ院(分院含め千人収容)で3カ月間、民主主義や市場経済を学ぶほか、基礎職業訓練を受ける。社会に出る際は、定着支援金600万ウォン(約45万円)や賃貸マンションの支給を受ける。飲食店勤めやホームヘルパーになることが多いという。
ただ、雇用契約や賃金労働の概念を理解するにも時間がかかるほか、「生活全般につき当局への密告が奨励された北朝鮮での恐怖心は簡単には薄れない」(施設関係者)。10周年式典では、「顔は出さない」というメディアの取材条件が入所者へ事前に知らされていたが、カメラの前では顔を隠して走り去る人が目立った。家族を北朝鮮に残しているケースが少なくなく、警戒心は依然強い。
各種研究機関によると、韓国にいる脱北者のうち、無職は2000年は57%だったが、07年には32%に減少した。しかし就労できた人でも42%は日雇い労働にとどまっている。仕事の能力や習慣の違い、偏見から韓国社会がまだ受け入れきれていないのが現状だ。
式典で匿名を条件に記者会見した女性(37)は「(イントネーションや方言など)言葉も違い、韓国社会に出るのがまだ怖い。でも韓国には自由があり、努力さえすれば成功できるという先輩の言葉を信じたい」と話した。
北朝鮮から韓国に逃れた脱北者を対象に韓国政府が設立した定着支援施設「ハナ院」(京畿道安城市)が、開設から10周年を迎えた。韓国社会への適応訓練を終え、ハナ院を巣立った脱北者は1万4千人を超えた。ただ仕事に就くことができても半数は日雇い労働の不安定な立場を余儀なくされるなど、「自立」への道はまだ遠い。
今月8日に施設内で開かれた10周年記念式典には、政府や脱北者支援団体の関係者ら約300人が出席。玄仁沢(ヒョンインテク)・韓国統一相はあいさつで、「脱北者問題の解決は(南北朝鮮の)統一と先進化に向かう試金石になる」と述べ、歴史的な使命感を持って事業に取り組むとの決意を表明した。
統一省によると韓国への脱北者数の累計は、ハナ院開設前年の1998年までは947人だったが、北朝鮮の経済悪化を背景に増加の一途をたどり、今年6月末には1万6513人に達した。