介護タクシー脱サラし起業 三原の元技術者・大亀さん   ヘルパーニュースTOP

大手重機メーカー三菱重工業の技術者として航空機や鉄道車両の製作にかかわってきた、三原市糸崎の大亀準一さん(58)が脱サラし、4月から、お年寄りや体の不自由な人の送迎を行う介護タクシーを個人で始めた。ホームヘルパー資格を取るなど3年がかりで取り組んだ異業種への転身。利用者は順調に増えているといい、「たくさんの笑顔に出会いたい」と張り切っている。

 「血圧どうだった。調子いいかね」。大亀さんが運転席から声を掛けると、後部座席で車いすに乗ったまま車窓の風景を眺めていた同市糸崎、砂田満利さん(80)が、「うん、大丈夫」と笑顔を見せた。

 砂田さんは17年前に脳梗塞を患ってから右半身が不自由で、車いす生活を送っている。週2回、人工透析を受ける必要があり、これまでは一般の小型タクシーで通院していたが、いつも付き添ってくれていた妻(71)が介護疲れで体調を崩したため、車いすのまま1人で乗れる介護タクシーを利用し始めたという。

 最初は無口だった砂田さんも、最近は大亀さんとの世間話が待ち遠しい様子だ。妻も「介護のストレスでつらい時期もあったけれど、大亀さんのおかげで、夫に優しく接することが出来るようになりました」と喜んでいる。

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 エンジニアとして国内外を飛び回っていた大亀さんが介護に興味を持ったのは、糖尿病で同市内の病院に入院した約5年前。同室の男性が重度の糖尿病で足を切断し、「こんな体になっても自由に出歩きたい」としみじみ話すのを聞いて、「何か出来ないだろうか」と考え始めた。

 退院後、自宅近くの坂道で座り込んでいるお年寄りが気になった。話を聞くと病院からの帰りで、坂道を上るのがきつくて休憩しているという。「身近な人の足になりたい」と、介護タクシーの起業を思いついた。

 2006年に準備を始め、ホームヘルパー2級資格や個人タクシー免許を取得。介護タクシー事業を行っているタクシー会社も見学した。軽ワゴン車の新車を購入し、定年まで2年を残して3月末に退職。4月1日、自宅の玄関先に「大亀介護タクシー」の看板を掲げた。

 病院の送り迎えだけではなく、時には美容院や買い物に同行し、荷物を運んだり、車いすをを押したりもしている。「桜が見たい」という女性を三原市八幡町の桜の名所、御調八幡宮に連れて行った時は、「八幡さんの桜がまた見られるなんて」と涙を流して喜ぶ女性の姿にもらい泣きしたという。女性は1週間後に亡くなり、「桜を見せてあげられて良かった」と思った。

 そんな心を込めたサービスは口コミで評判を呼び、顧客は20人を超えた。大亀さんは「お客さんの『ありがとう』が元気をくれる。感動することばかりで、つらい日はありません。もっと多くの人の役に立ちたい」との思いをかみしめながら、ハンドルを握っている。

 問い合わせは大亀介護タクシー(090・7976・1981)。

介護タクシー

 1人での外出や公共交通機関の利用が困難な高齢者や障害者のためのタクシー事業で、国土交通相の許可が必要。車いすのまま乗り降り出来たり、寝台を設けたりした「福祉自動車」を使うことが多く、運転手は介護福祉士、ホームヘルパー、サービス介助士のいずれかの資格を受けるか、ケア輸送サービス従事者、福祉タクシー乗務員の研修を修了する必要がある。国交省中国運輸局によると、県内の事業者は252社で、このうち備後地方の4市2町では76社(3月末現在)。近年、個人事業者が増えているという。

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